7番隊隊長の部屋

今とか未来とか。日記ではない。日記はまた別にあります。

日々 9

静かで平和な森の中を、数台のトラックがこちらに向かって来ていた。装甲が厚く、鉄格子の窓がついて軍用車にも見えるそれら………しかし私はそれの正体を知っていた。

「何で………何で人さらいがここに!?」

私は一瞬かなりうろたえてしまったが、すぐに持ち直して冷静に考えた。視力も強化された私だから見えた距離だ、私が彼らから気付かれているということはまず無いだろう。彼らがこの図書館に向かっているのは明らかだが、あれだけ距離があれば図書室の生活跡を片付けて隠れる時間は十分取れるだろう。あとは隠れたままやり過ごせばいい。

「…………いい、よね………?」



片付けが終わり、後は隠れるだけなのに私はまだ図書室にいた。別に隠れ場所に悩んでいる訳ではない、私が本気で隠れれば長い間食料や水と一緒に隠れていられる所なんていくらでもある。考えているのは、トラックに閉じ込められているであろう子供達の事だ。
相手がどの程度のものか知らないが、あの頃私が全力で戦えば人さらいなんて簡単に倒せただろう。でも、武器を持たないと決め、平和な暮らしに慣れ始めた今はどうか。

「無理、だろうな………」

量は時として質に勝る。集団で襲われたらほぼ確実に負けるだろう。隠れていた方がずっと良い筈だ。
でも、私はあの中の子供達の変わる前の自分を重ねてしまっていた。きっと子供達はもうすぐ売られてしまうだろう。私のように研究所にということは無いだろうが、奴隷同様に扱われるか、バラバラにされて臓器を売り飛ばされるか………それを許すのは難しかった。


考えていると急にガヤガヤと男の声が聞こえてきて私は飛び上がった。もう隠れる時間はない。私は諦めて、せめてパーカーのフードを深く被るとカウンターの裏に身を潜めた。きつく抱きしめた真っ白い本は、いつもより冷たい気がした。