7番隊隊長の部屋

今とか未来とか。日記ではない。日記はまた別にあります。

日々 11

ニヤニヤしながらこちらを見ている男をフード越しに伺いながら、私は何度目か分からないため息を噛み殺していた。
人さらいにとっての価値なんて知らないし特に自分の容姿に自信があった訳でもないが、偶然にも高い評価を受けられたのは悪い事ではなかった。警備は多少強固になるだろうが、強い拘束や痛め付けられることも無いだろう。

不意に、男が立ち上がった。何かするのかと思わず体を固くしたが、男は近くの部下に耳打ちしただけで座りなおした。部下は玄関からどこかへ走っていった。
ほどなくして部下は縄に繋がれた青年と共に戻ってきた。青年の顔は長く伸びた赤毛に隠されて見えないが、いい扱いを受けていないのは体の傷を見ればよく分かる。部下は縄を男に渡すと部屋を出ていった。曇ってきたのか、景色が青さを増した気がした。
赤毛の少年も男もしばらく何をするでもなくじっとしていたが、やがて男はおもむろに少年に近づくと立っている彼の腹を蹴り飛ばした。

(!?)

無抵抗の状態で腹を蹴られた少年は当然そのまま床に倒れこむ。激しく咳き込んでいたが、男はそこに更なる暴力を加えた。腹を蹴る、足を蹴る、頭を踏みつける。男の目は血走り、口は倒錯的な快楽に歪んでいた。雲が増えてきたのか、世界は青さを増していく。

(……酷い…………)
少年はもはや痛みに対する反応すらしなくなっていたが、男の暴力はむしろ激しさを増していた。少年の様子や男の力加減を見ればこんなことが毎日のように行われているであろう事は用意に想像できる。気がつけば私は両手に力を入れていた。手錠が軋む音を感じ、怒りを落ち着かせようとする。
(落ち着いて、今飛び出してはいけない)
(何故?あんな男倒してしまえばいい)
(もう人を傷つけたくない。殺してしまうかも)
(じゃあ、あの赤毛の少年を放っておくの?)
(それは………仕方が……)
(別にこそこそ逃げなくても人さらいなんて倒せばいい。そっちの方が彼も他の子供達もこれ以上傷つかないし私にはその力がある)
(………でも………私は武器はもう持たないって)
(それを決めたのは私でしょう?)

少年が傷つく度に世界は青さを増していく。燃え上がる怒りと反比例して思考の温度はどんどん下がっていく。手錠の細い金属が悲鳴をあげる。

(でも……私は…オレは……嫌だ……違う…)

(下らない感情なんて捨ててしまえ。考えろ。今すぐ彼を助けるにはどうすればいい?)

感情が、青い理性に飲み込まれていく。